これは便利!採卵数と刺激日数から薬剤投与量が計算できる!!

不妊治療の調節卵巣刺激で使用されるゴナドトロピン製剤の開始用量について、日本人向けに計算式を作成した文献を見つけました。また、その計算がweb上の計算機で使用できるので便利なツールになりそうです。

 

2022年12月に受理されたばかりの、ほやほやの報告です。

DOI: 10.1002/rmb2.12499  


タイトルはこちらです。

The gonadotropins starting dose calculator, which can be adjusted the target number of oocytes and stimulation duration days to achieve individualized controlled ovarian stimulation in Japanese patients

 

採卵数だけではなく、調節卵巣刺激の日数からゴナドトロピン製剤の開始用量を計算して、個別化治療ができる、というものですね。

 

通常、薬剤の投与量はどのようにして決定しているかというと、各病院、クリニックにより方針がありますので、実は日本全国で統一されているものではないようです。

 

いわゆる先生の経験や技術がまさに妊娠率を大きく左右するといわれている領域です。まさに神の手ですね。

 

もちろん、各ゴナドトロピン製剤の添付文書に開始用量について記載があり、また刺激途中で用量を増やしたり減らしたりできる薬剤もあります。その範囲内で先生方は投与量を調節しているわけですね。

 

ただ、2022年4月から不妊治療の多くが保険適用となったこともあり、ある程度の統一化も必要ではないかという声もあります。

 

この論文は、その声を反映した、まさにタイムリーな報告かと思います。

 

切り口として興味深かったのが、次の3点です。

  1. 希望する採卵数と刺激日数から計算できる
  2. 使用するファクターは年齢とAMH
  3. 計算機がwebにあり誰でも利用できる

 

1.希望する採卵数と刺激日数から計算できる

論文にも述べられておりますが、妊娠率を考える時、最適な採卵個数は何個か、という議論は海外含め何度も何年もかけて報告されております。患者の年齢、何人子供が欲しいのか、卵巣機能、新鮮胚移植か凍結胚移植か、など様々な条件がありますが、5~15個と集約されているようです。

 

日本での2022年4月以降の保険適用下での採卵では、10個以上の場合、保険点数は同じで15個採れても20個採れても10個と同じです。

 

また刺激日数という観点は、日本人らしく、とても共感できるポイントでした。おそらく日本は海外と違い、患者様にとてもフレンドリーだと思います。採卵や移植は平日でなければ難しいクリニック、病院がほとんどだと思いますが、例えば、注射は土日や平日の夜遅くでも対応してくれる不妊クリニックが多くあります。

 

不妊治療を行っている女性は有職者も多く、仕事を抜けて通院というのは、なかなか苦しいものです。

 

そのため、刺激開始日から刺激日数を考慮し、例えばクリニック側の理由で日曜を外す、とか、患者側の都合で採卵日は平日を外すなど、予定に合わせて刺激日数を決めて、ゴナドトロピン製剤の投与量を計算できるようにした、という発想がとても素敵ではありませんか!!

 

2.使用するファクターは年齢とAMH

投与量を算出する際、どのファクターを使用するのがよいか、ということも様々なところで議論されております。ここでは年齢とAMHですが、その他、AFC、FSH値、体重、BMI、喫煙歴、その他ホルモン値などが考慮されております。

 

2021年に日本でも発売になったゴナドトロピン製剤のひとつであるレコベルは、投与量は体重とAMHで算出するよう添付文書に記載されております。

 

AMHは血液検査で測定されますが、2022年4月以降は保険でカバーされるようになりました(半年に1度)。体重は体重計があれば簡単に測定できます。そのため、この2点は簡易なファクターですね。

 

ただ、現実では、体重計がないクリニックも多く、患者さんから自己申告された体重の数値を計算に用いることもあるようです。その場合、女性がどの程度正確な体重を報告しているか、という点は気になります・・・。

 

それを考えると、女性は年齢も少しごまかす傾向にはありますが、保険証に記されておりますので、年齢の数値の方が正確な情報となります。

 

3.計算機がwebにあり誰でも利用できる

URLはこちらです。

fsh | CALCONIC_ Calculator

 

実際は、このような式が算出されたそうですが、自分で計算するのは面倒なので、ちゃんと計算機をWeb上に提供してくださっており、とても便利ですね。

Optimalstartingdoseofgonadotropin(IU)=targetnumberofoocytes(numberofoocytes)∕(−0.00019331∗Age(years)+0.00108384∗AMH(ng∕ml)+0.00856471)∕Stimulationdurationdays

 

そしてこのソフトのすごいところを最後に記します。

算出される投与量は細かくでるが、薬剤の目盛りや添付文書に沿った形で至適な投与量を示すところです。

例えば、採卵個数10個、刺激日数11日間が希望の3-歳でAHMが2ng/mlの方だと184.28IUと算出されますが150IUが表示されます。(上記左図参照)

この細やかな点が配慮されている計算機です。

 

最後に、この計算方法がどのように算出されたか、について記します。

計算式を用いる試験では、投与量を算出するためにLa Marcaのノモグラを基本として100名の患者の調節卵巣刺激をし、ゴナドトロピン製剤の総投与量と採卵個数から式を導き出しております。それをOSIとしており本試験の主要評価項目になっております。

OSI:oocytes retrieved per total dose of  gonadotropin 

 

La Marcaのノモグラムから調整された投与量

40歳未満の患者:

・112.5~187.5IUと算出された場合➡150IU

・187.5~230IUと算出された場合➡225IU

40歳未満だがAMH値が3.0ng/ml未満:

・300IU

40歳以上の患者:

・300IU

AMH値が0.5ng/ml未満:

・225IU

 

背景として、La Marcaのノモグラムは25歳から40歳までが対象で、算出される投与量も75~230IUまでという制限があるからです。日本では40歳を超える不妊治療患者様は多く存在しますし、ゴナドトロピン製剤の投与量も添付文書に合わせたようですね。

 

その後、12名で検証しコントロール群と比較しております。

 

この後、この計算式が評価され、かつ普及し、データが集積されるとまた新たな発見があるかもしれませんね。続報を楽しみにしたいです。

 

そして、個人的に気になった点を記して終わりにします。

総投与量と採卵個数から投与量を算出して計算式を求めておりますが、その計算式を用いて投与量が180IUと算出されても150IUで投与することになります。この1日30IU(180-150IU)×10日(刺激日数を10日とした場合)の300IUの総投与量の差は誤差範囲なのでしょうか。あるいは実臨床では刺激途中で投与量の増減ができるため、この過不足分は調節するといいのでしょうか。途中で増減しなければ刺激日数が2日程度のびるかもしれないのでしょうか。

 

DISCLAIMER

個人的に読んだ文献の解釈です。読み間違い、理解不足あるかと思います。誤認、誤記等は温かい目で見守ってください。また実際の治療はガイドラインや添付文書等に従ってください。

 

★キコの願い★

子どもを持ちたいという方々が安心して有効で安全な不妊治療を受けることができ、赤ちゃんが訪れますように♪♪